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東京高等裁判所 昭和55年(ネ)911号 判決 1983年2月23日

控訴人

天野正之

右訴訟代理人

依田敬一郎

岡邦俊

被控訴人

白川義員

右訴訟代理人

竹澤哲夫

千葉憲雄

望月千世子

主文

本件控訴を棄却する。

訴訟の総費用は、控訴人の負担とする。

事実

第一  当事者が求めた裁判

一控訴代理人は、「原判決を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は、第一、二審を通じて、被控訴人の負担とする。」との判決を求めた。

二被控訴代理人は、主文同旨の判決を求めた。

第二  当事者の主張

一  請求の原因(被控訴人)

1被控訴人は、写真家として、昭和四一年四月二七日、オーストリア国チロル州サン・クリストフのアルプス山系において、スキーヤーらが雪山の斜面を波状のシュプールを描きつつ滑降している場景を撮影し、そのころ、別添写真一のようなカラー写真(以下「本件写真」という。)を製作した。

したがつて、本件写真は被控訴人の創作にかかる著作物であり、被控訴人はこれにつき著作権(著作財産権及び著作者人格権)を取得したものである。

そして、被控訴人は、昭和四二年一月一日付実業之日本社発行の写真集「SKI'67第四集」に本件写真の複製を掲載して発表し、また、本件写真の複製は、その後被控訴人の許諾のもとにアメリカン・インターナショナル・アンダーライターズ社(以下「A・I・U社」という。)発行の昭和四三年用広告カレンダー(以下「A・I・U社のカレンダー」という。)にも掲載された。

2控訴人は、マッド・アマノのペンネームを用いるグラフィック・デザイナーであるが、本件写真の複製(以下この複製も「本件写真」という。)を利用して、本件写真の一部をトリミング(カット)するとともに、右上部に自動車タイヤの写真を配して映像を合成し、別添写真二のような白黒写真(以下「本件モンタージュ写真」という。)を製作し、これを自己の作品として、昭和四五年一月ころ発行の自作写真集「SOS」の二〇葉目に掲載して発表し、また、株式会社講談社(以下「講談社」という。)発行の「週刊現代」同年六月四日号のグラフ特集「マッド・アマノの奇妙な世界」に「軌跡」と題して掲載させた。

控訴人の右行為は、被控訴人が本件写真について有する著作者人格権、すなわち同一性保持権や氏名表示権及び著作財産権、すなわち複製権や頒布権を侵害したものである。

3被控訴人は、控訴人の右侵害行為により、次のような損害をこうむつた。

(一) 被控訴人は、過去一三年間にわたり、写真家としてその芸術作品を通して地球の美しさを再発見し、これを観る者の人間の良識と人間性の回復に何らかの可能性を見出すことを意図して、世界一三〇か国において写真撮影による創作活動を続け、主として山岳関係、スキー関係の写真の製作、中でも特にアルプスとヒマラヤに関する写真の製作に労力を注いできたものであつて、その作品を昭和四四年一〇月講談社発行の白川義員作品集「ALPS」、昭和四六年九月株式会社小学館発行の白川義員作品集「ヒマラヤ」、昭和三八年一〇月から昭和四二年六月講談社発行の「世界の文化地理」全二三巻、昭和三九年二〇月から昭和四一年七月株式会社世界文化社発行の「世界文化シリーズ」全二六巻、昭和四五年ドイツ国において発行の「フォト・マガジン」及び昭和四六年イタリー国において発行の「フォト・グラフィコ」などによつて国の内外で発表し、その結果、社会的に写真家として相当の評価を受けてきた。

(二) 被控訴人は、日頃から写真家として抱いている前記の著作意図を実現すべく本件写真を製作したのであり、その製作にあたつては、昭和四一年二月下旬から四月下旬まで約二か月間、オーストリア国チロル州・サン・クリストフ所在のオーストリア国立スキー学校の校長クルッケン・ハウザー教授と交渉し、懇請した結果、ようやく被控訴人の右意図を理解してもらい、写真撮影の許可とモデルとして特に優秀なスキー教師を使用する便宜を与えてもらうことができた。本件写真にあらわれたスキーのシュプールは、よほどのスキーの名手でないと描けないものである。したがつて、本件写真は、被控訴人の写真家としての信念と著大な努力によつて生み出された労作として、被控訴人にとつてはいわば分身ともいうべき金字塔的意味をもつ芸術作品である。

(三) ところで、控訴人の前記行為により、本件写真における被控訴人の前記著作意図は完全に破壊され、かつ、茶化、侮辱されたものであり、また、前記クルッケン・ハウザー教授の被控訴人に対する善意も裏切られる結果となつたため、今後被控訴人がオーストリア国等の外国において撮影活動に従事できなくなるおそれさえ生ずることとなつた。そして、被控訴人は、これらの事情及び前記のとおりの労作である本件写真が控訴人によつて改変複製されたこと自体により、本件写真の著作者としての名誉信用を著るしく毀損され、甚大な精神的苦痛を受けた。

そして、右名誉信用の毀損は、これを回復するために、控訴人において被控訴人に対し、株式会社朝日新聞社(東京本社)発行の朝日新聞、株式会社毎日新聞社(東京本社)発行の毎日新聞及び株式会社読売新聞社発行の読売新聞の各全国版社会面に、二段抜左右一〇センチメートルのスペースをもつて、見出し二〇級ゴシック、本文一六級明朝体、控訴人名及び宛名一八級明朝体の写真植字を使用して、別紙「謝罪広告」記載のような文面の謝罪広告を一回掲載することを必要とするものであり、また、右精神的苦痛は、これを慰藉すべく金銭で評価すると数百万円の支払いを必要とするものである。

4そこで、被控訴人は、控訴人の本件著作者人格権及び著作財産権に対する侵害行為に基づき、控訴人に対し、3に記載のとおりの謝罪広告を求めるとともに、慰藉料として金五〇万円及びこれに対する右侵害行為以後の日である昭和四六年一〇月七日から支払済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求の原因に対する認否と主張

(控訴人)

1請求の原因1の事実は認める。

2請求の原因2の事実は認めるが、権利侵害との主張は争う。

3請求の原因3の(一)の事実中、被控訴人が写真家としてこれまで主として山岳関係、スキー関係の写真を製作してきたことは認めるが、その余の事実は知らない。

同(二)の事実は知らない。

同(三)の事実は否認する。本件モンタージュ写真の製作発表により、被控訴人の本件写真の著作意図と本件写真についての美術的評価が風刺的に批判されたにすぎない。

また、被控訴人が毀損されたと主張する名誉は、人格的価値について社会から受ける客観的評価としての社会的名誉ではなく、単に被控訴人が自己自身の人格的価値について有する主観的評価としての名誉感情にすぎないばかりでなく、言うところの名誉信用と精神的苦痛とが具体的に如何なるものをいうのかも明らかでない。

なお、本件モンタージュ写真が製作される以前に、被控訴人は後記のとおり本件写真のネガフィルムをフォト・エージェンシー(写真貸出業者)に預け、顧客の自由な利用に供しており、本件写真の複製も前記のとおりA・I・U社のカレンダーに掲載されたほか、コカ・コーラ社の昭和四六年用カレンダーにも掲載されて広く流布されていた事実に照らすと、本件モンタージュ写真の製作発表のため本件写真が複製されたこと自体により、被控訴人に精神的苦痛が生ずるとは想像しえない。

三  抗弁(控訴人)

1本件著作者人格権及び著作財産権侵害の主張に対して

(一) 被控訴人の包括的許諾

(1) 被控訴人は、本件写真を製作後、そのネガフィルムをフォト・エージェンシーに預けていた。フォト・エージェンシーは、保管中のネガフィルムを顧客に貸出す業者であり、顧客は借受けたネガフィルムの映像を目的に適つた方法態様で自由に利用できるものであつて、このことは被控訴人も認識していたところである。

したがつて、被控訴人は、本件写真をフォト・エージェンシーに預けたことにより、この業者を介する本件写真の不特定の利用者に対し、

(イ) 本件写真を複製すること

(ロ) 本件写真を適宜トリミングし、或いは合成写真の素材として改変すること

(ハ) 本件写真を使用するにあたつて、その製作者としての被控訴人の名を表示しないこと

を包括的に許諾していたものである。

(2) 本件写真は、A・I・U社のカレンダーに掲載されたが、それは、同社の依頼を受けた広告代理店が右フォト・エージェンシーから本件写真のネガフィルムを借り受け、これを使つて製作したものである。そして、右カレンダーに掲載の本件写真にはその著作者としての被控訴人の名は表示されていなかつた。本件モンタージュ写真は、右カレンダーに掲載の本件写真を利用して製作されたものである。

(3) したがつて、控訴人が本件写真を利用して本件モンタージュ写真を製作発表した行為は、被控訴人が予めこれを許諾していたものというべきであるから、本件著作者人格権を侵害するような違法性はなく、また、控訴人が右利用にあたつて本件写真の使用料を支払わなかつたことを除けば、本件著作財産権を侵害するような違法性もない。

(二) 本件写真利用の目的態様の相当性

(1) 本件モンタージュ写真の製作発表にあたつてなされた本件写真に対する改変行為と本件写真の製作者としての被控訴人名の表示を省略した行為は、以下に述べるとおり、いずれも社会的にやむをえないものとして許されるべきである。

(イ) 被控訴人は、社会的に著名な写真家であるところ、前記のとおり、本件写真にはオーストリアの冬山とこれを滑降するスキーヤーのシュプールの美しさが表現されており、被控訴人のその著作意図も「人間の住む地球は美しい」ことを訴えるにあつたと想像されるものであるところ、本件写真をカレンダーに掲載したA・I・U社は、自動車事故による災害についての保険を行うことを業とする会社である。

(ロ) 本件モンタージュ写真は、A・I・U社のカレンダーに掲載された本件写真と自動車タイヤの写真を組合わせて製作したいわゆるモンタージュ写真(合成写真、フォト・モンタージュ)であるが、控訴人はこれにより、本件写真において美しいものとされたスキーのシュプールが巨大な自動車のタイヤのわだちに似ていることを指摘するとともに、スキーヤーを自動車から逃れんとしている人に擬して、「人間の住む地球が公害によつて荒らされて汚ないものだ」ということを、A・I・U社を含む自動車関係企業の姿勢に対する割切れない感情とともに表現しようとしたものであつた。すなわち、それは、本件写真における被控訴人の著作意図とその美術的評価を風刺的に批判するとともに、自動車公害の現況を風刺したパロディーにほかならない。

(ハ) パロディーは、すでに公表された有名な著作物をもじり、その内容とは異なる内容のものとしてこれを茶化し、あるいは風刺した、原著作物とは異なる思想感情を表現する新たな著作物であり、現に社会的にもそのように認識され、その価値を認められているものである。パロディーの製作においては、その目的、手法からして、原著作物の内容を改変し、その同一性を害したり、原著作者名を表示しないことがあるのは当然であるが、パロディーに関する右のような社会的認識があることから、原著作物の思想感情がパロディーによつて表現された思想感情どおりのものと想像されたり、原著作物がパロディーの製作者の作品と想像され或いは原著作物がその著作者の作品でないと想像されたりすることはありえない。したがつて、パロディーの製作にあたつて、原著作物を改変したり、その著作者名の表示を省略することは社会的にやむをえないこととして許されているというべきであり、このことは、現行著作権法二〇条二項及び一九条三項にも規定されているところである。

また、本件モンタージュ写真の前記製作方法は、フォト・モンタージュの作成技法の一つに属するものである。フォト・モンタージュは、全く異質の空間とか物質を映した写真を素材としてこれを組合わせて製作した視覚的にも思想的にも原写真に託された意図と異なるものを表現した映像創作物であり、その製作技法も種々開発されて、現在社会的にもそのように認識されるとともに、美術上の表現手法の一つとして常識化され、その製作にあたつて原写真の製作者名の表示を省略することができるものとして是認されるに至つている。

(ニ) したがつて、本件モンタージュ写真の製作発表にあたつてなされた本件写真に対する改変行為も本件写真の著作者としての被控訴人の名の表示を省略した行為も社会的にやむをえないとして許されるべきものであり、違法性がないというべきである。

(2) 本件モンタージュ写真の製作発表にともなつてなされた本件写真の複製行為は、本件に適用される明治三二年法律第三九号著作権法(以下「旧著作権法」という。)三〇条一項第二に規定された「自己ノ著作物中ニ正当ノ範囲内ニ於テ節録引用スルコト」にあたるものである。

(イ) 本件モンタージュ写真は、前記のとおり、本件写真とは別個の思想感情を表現した新たな著作物である。控訴人は、本件モンタージュ写真を製作するにあたり、本件写真を引用したが、この引用は、本件モンタージュ写真の前記著作意図に適合させるべく本件写真の一部を適宜省いて行つたものである。そして、右節録引用にともなつて生じた本件写真の改変は、前記のとおり社会的にやむをえないものとして許されるべきものである。

(ロ) 旧著作権法三〇条二項には、「本条ノ場合ニ於テハ其ノ出所ヲ明示スルコトヲ要ス」と規定されているので、引用した原著作物の「出所の明示」がなければこれを「正当の範囲内において節録引用した」ことにならないと考えられるかも知れない。しかしながら、同法三七条は、偽作をした者に対する罰則を、同法三九条は、同法三〇条二項の規定に違反し、出所を明示せずに複製した者に対する罰則をそれぞれ規定しており、これらを総合的にみると、もし、同法の解釈として「正当の範囲内における節録引用」と認められるために「出所の明示」を必要とするならば、出所の明示のない節録引用は偽作とされることになるのであるから、同法三九条の罰則規定は、同法三七条の罰則がある以上、全く必要のない規定となるのみならず、同法三九条の罰則規定が同法三七条の罰則規定よりはるかに軽い刑罰を定めていること及び「出所の明示」をなすべき旨の規定は、同法三〇条二項のほか、同法二〇条の規定する新聞又は雑誌に掲載した政治上の時事問題を論議した記事の転載や同法二〇条ノ二の規定する時事問題についての公開演述の新聞又は雑誌上の掲載についても存することに徴すると、原著作物の「正当の範囲内における節録引用」と「出所の明示」とは関係のないものであり、右「出所の明示」は、原著作物の複製が偽作とみなされないための要件ではなく、原著作物の自由利用が許される場合についてもこれを要求し、罰則の対象としているにすぎないものと解するほかない。

したがつて、本件モンタージュ写真の製作は、引用にかかる本件写真の出所を明示していないが、そのために本件写真の偽作とされるべきいわれはない。

また、同法三〇条二項が原著作物の複製につきその「出所の明示」を要求するゆえんは、原著作者の著作者人格権(氏名表示権)の保護にあるところ、本件モンタージュ写真における本件写真の著作者としての被控訴人名の表示を省略したことについて違法性のないことは前記のとおりであつて、これによると、仮に同法三〇条の解釈上、「正当の範囲内における節録引用」が偽作とみなされないために「出所の明示」を要するとしても、本件モンタージュ写真の製作についてみる限り、これを偽作とすべきものではない。

2被控訴人の損害発生の主張に対して

(一) 慰藉料債権の消滅

(1) 示談成立

(イ) 本件モンタージュ写真が前記のとおり講談社発行の「週刊現代」に掲載されたことが本件著作者人格権及び著作財産権を侵害したとするならば、右掲載は、控訴人と講談社との共同不法行為によるものとされるべきであり、両者は、これにより被控訴人に生じた損害を連帯して賠償する債務を負つたこととなる。

(ロ) ところで、被控訴人と講談社は、すでに、右損害賠償債務について、講談社は被控訴人に対して金五〇万円を支払い、被控訴人は講談社に対してその余の損害賠償債権を放棄(講談社のその余の損害賠償債務を免除)する旨の示談が成立し、右金員の授受も終えている。

(ハ) 被控訴人と講談社の右示談の効力は、右損害賠償債務を講談社と連帯して負つている控訴人にも及ぶものであり、したがつて、被控訴人の控訴人に対する右損害賠償債権は、すべて消滅したことになる。

(2) 消滅時効の完成

被控訴人は、本訴において、当初、控訴人に対して本件著作財産権侵害に基づく慰藉料も請求する旨主張していたが、差戻前当審の昭和四九年三月二七日午前一〇時の第九回口頭弁論期日において右主張を撤回した。したがつて、本件著作財産権侵害に基づく慰藉料債権は、その後三年の期間が経過したことにより時効が完成して消滅したものである。

(二) 被控訴人の名誉信用の回復

本件については、すでに第一審、差戻前の控訴審及び上告審の判決が何れも多くの新聞に写真入りで掲載されたことから、本件写真が別添写真一のとおりのものであり、その著作者が被控訴人であることが広く世間に知れわたつた。したがつて、本件写真の著作者としての被控訴人の名誉信用は、すでに社会的に本訴において被控訴人が求める謝罪広告を不要とするまでに回復したとみるべきである。

四  抗弁に対する認否と主張

(被控訴人)

1抗弁1のうち

(一) (一)の(1)の本件写真のネガフィルムが控訴人主張の時期にフォト・エージェンシーに存在したこと、フォト・エージェンシーが保管中のネガフィルムを貸出す業者であること、その顧客は、借受けたネガフィルムを使つて原写真の複製を作ることができること及びそのことを被控訴人も認識していたことは認めるが、その余の事実は否認する。

控訴人主張のフォト・エージェンシーは、日本天然色写真株式会社のことであるが、同社は、被控訴人から預つていた他のネガフィルムを盗まれたことから、そのことを隠蔽すべく、被控訴人が同社に現像を依頼していた未現像フィルムを利用してそのネガフィルムを作り、ライブラリーに収めて、被控訴人から預つたネガフィルムとしての枚数不足を補つていたが、この補充したネガフィルムの中に本件写真のネガフィルムが含まれていたにすぎず、被控訴人が預けたものではない。

(一)の(2)の本件写真がA・I・U社のカレンダーに掲載されたことは認め、その余の事実は知らない。

(一)の(3)の主張は争う。

(二) (二)の(1)の(イ)の本件写真の著作意図とこれが表現している内容についての控訴人主張の事実は認め、その余の事実は知らない。

(二)の(1)の(ロ)の本件モンタージュ写真が本件写真を利用して控訴人主張の方法で製作されたいわゆるモンタージュ写真であることは認め、その余の事実は否認する。

(二)の(1)の(ハ)のパロディー、フォト・モンタージュと称されるものが社会に存在することは認め、その余の事実は知らない、主張は争う。

フォト・モンタージュの作成技法においては、素材として著作権の認められるもの、すなわち著作物を使用することは社会的に許されていない。

(二)の(1)の(ニ)の主張は争う。

(二)の(2)の(イ)の事実は否認し、主張は争う。

旧著作権法三〇条一項第二の「引用」として許されるためには、

(イ) 原著作物の一部を原作のまま(同一性を害することなく)引用すること

(ロ) 原著作物の出所を明示すること

(ハ) 引用目的が正当であること

(ニ) 引用態様が公正な慣行に合致すること

(ホ) 社会通念上正当な範囲内において引用すること

が要件として求められているというべきところ、本件モンタージュ写真においては、そもそも、本件写真を引用する主体としての控訴人自身の著作物が存在せず、また、控訴人は、本件写真について前記のとおり著るしい改変を加えたうえ、その出所も明示せずに本件モンタージュ写真を単に自己の作品として発表したのであつて、右改変利用行為は、本件写真の剽窃というほかなく、これをもつて引用と認める余地のないものである。仮に、右改変利用行為が引用に該るとしても、右要件のいずれも欠いており、本件モンタージュ写真が本件写真の大部分を利用していることは、右条項に規定された「正当ノ範囲内ニ於テ節録引用」することの要件を欠くものである。

(二)の(2)の(ロ)の主張は争う。

他人の著作物の無断複製が旧著作権法三〇条一項第二に該当するものとして許されるためには、前記のとおりその複製行為によつて原著作権者の著作者人格権(同一性保持権、氏名表示権)を侵害しないことが要件とされている。したがつて、原著作物の出所の明示を欠く「正当な引用」はありえない。

2抗弁2のうち

(一) (一)の(1)の(ロ)の事実は認めるが、同(イ)及び(ハ)の主張は争う。

被控訴人と講談社は、右示談が被控訴人と控訴人間の本件損害賠償債権に影響を及ぼすものではない旨を合意している。

(一)の(2)の主張は争う。

本件著作財産権侵害に基づく被控訴人の慰藉料請求の主張は、同一の不法行為に基づいて生じた精神的損害について賠償請求権発生の根拠の一つとしてなされているものにすぎないから、その主張の撤回により右慰藉料債権の消滅時効が独自に進行するものではない。

(二) (二)において控訴人の主張するように本件写真の著作者が被控訴人であることが広く世間に知られ、被控訴人の名誉信用が社会的に回復されたことは否認する。

第三  証拠関係<省略>

理由

一  本件写真について

被控訴人が写真家として、昭和四一年四月二七日、オーストリア国チロル州サン・クリストフのアルプス山系において、スキーヤーらが雪山の斜面を波状のシュプールを描きつつ滑降している場景を撮影して本件写真を製作し、これについて著作権(著作財産権及び著作者人格権)を取得したことは、当事者間に争いがなく、右事実に<証拠>によると、本件写真の製作について次のような経緯が認められる。すなわち、

被控訴人は、日頃から写真を通して改めて認識される地球の美しさを訴え、これを観る者に対してこの地球に住むことを自覚させることにより人間の良識と人間性の回復に貢献したいものと考えて写真の撮影活動を続けており、本件写真を製作するにあたつても、こうした見地から、美しい自然と人間の調和あるかかわり合いを表現すべく長い間構想を練り約二か月前から現地に赴いて撮影の場所や方法等を選定したうえ、モデルのスキーヤーらに対して現場における滑降法を指示し、前日と当日のいずれも午前六時から八時までの間撮影を試みた結果、本件写真の撮影に成功したものである。このようにして製作された本件写真には、アルプスの冬山の景観とこれを背景として雪の斜面をスキーヤーらが波状のシュプールを描いて滑降する様子が格段に美しくリズミカルに表現されているものとみるべきである。このように認めることができる。

そして、被控訴人がその後昭和四二年一月一日付実業之日本社発行の写真集「SKI'67第四集」に本件写真を掲載して発表したこと及び本件写真が被控訴人の許諾のもとにA・I・U社のカレンダーに掲載されたことは当事者間に争いがなく、なお<証拠>によると、右写真集に掲載の本件写真は、縦約三〇センチメートル、横約三六センチメートルの大きさで、その右側には被控訴人の本件写真についての紹介が六行にわたつて記載され、その末尾に「写真/白川義員」と記載されていること、また、右カレンダーに掲載の本件写真は、縦横とも約三七センチメートルの大きさで、右写真集のものと比べると、左側の約九分の二相当の部分がカットされており、著作者の表示はなく、写真の下に「Sankt Christof―AUSTRIA」と撮影地名が記載されていることが認められる。

二  本件モンタージュ写真について

控訴人がマッド・アマノのペンネームを用いるグラフィック・デザイナーであること及び控訴人が被控訴人主張のとおり本件写真を利用して本件モンタージュ写真を製作し、これを昭和四五年ころ発行した自作写真集「SOS」及び講談社発行の「週刊現代」同年六月四日号のグラフ特集「マッド・アマノの奇妙な世界」に掲載して発表したことは当事者間に争いがなく、<証拠>によると、控訴人が本件モンタージュ写真を製作するにあたり利用した本件写真は、A・I・U社のカレンダーに掲載されたものであつたこと、右「SOS」に掲載の本件モンタージュ写真は、縦約三〇センチメートル、横約二〇センチメートルの大きさで、これに利用された本件写真は、右カレンダーに掲載の本件写真の左側約三分の一の山岳風景部分をカットしたものであり、右「週刊現代」に掲載の本件モンタージュ写真は、縦約二二センチメートル、横約一八センチメートルの大きさで、これに利用された本件写真は、右カレンダーに掲載の本件写真の左側から約六分の一の山岳風景部分をカットしたものであること、本件モンタージュ写真中の自動車タイヤの映像は、ブリジストンタイヤ株式会社の広告に使われたスノータイヤの写真を利用して製作されたものであること、本件モンタージュ写真においては、本件写真中の利用部分がカラーから白黒に変じた点を除いて原状をそのままにとどめている反面、スキーヤーらのシュプールが右タイヤの痕跡に似た印象を与えるとともに、巨大な自動車タイヤが右シュプールに沿つて転がり始めようとし、スキーヤーらがこれから逃れようとしている非現実的な世界を表現したものと見られなくもないこと、また、本件写真の利用部分につきその著作者としての被控訴人の氏名を表示していないことを認めることができる。

一方、控訴人が本件モンタージュ写真を製作するにあたり、右のとおり本件写真を利用することについて、被控訴人から同意を得たことに関しては、控訴人の主張立証しないところである。

三  本件著作権の侵害について

1前記一、二の事実を総合し、本件写真及び本件モンタージュ写真を対照して検討すると、本件モンタージュ写真は、カラーの本件写真の一部を切除し、これに本件写真にないスノータイヤの写真を合成し、これを白黒とした点において、本件写真に改変を加えて利用作成したものということができる。

そして、利用された本件写真部分は、外見的には本件写真そのものと同一ではなくなつたが、本件写真の本質的特徴をなすとみるべき、雪の斜面をシュプールを描いて滑降して来た六名のスキーヤーの部分及び山岳風景の部分中、前者はその全部、後者はなおその特徴をとどめるに足る部分からなるものであるから、本件写真における表現形式上の本質的な特徴は、利用された本件写真部分自体において感得することができるものである。また、本件モンタージュ写真は、これを一見しただけで、右の本件写真部分にスノータイヤの写真を付加することによつて作成されたものであることを看取しうるものであるから、それが前認定のような非現実的な世界を表現し、本件写真とは別個の思想感情を表現するものと見ることができるとしても、なお本件モンタージュ写真から本件写真の本質的特徴を直接感得しうるというに妨げないものである。

してみると、控訴人のした本件写真部分の複製利用は、被控訴人が本件写真の著作者として有する本件写真についての同一性保持を侵害する改変であるといわなければならず、また、その著作者としての被控訴人の氏名を表示しなかつた点において、氏名表示権を侵害したものといわなければならない。

2右著作権侵害について、控訴人は、それが違法性を欠き、社会的に許容されるべきものである旨種々主張するので、以下順次検討する。

(一)  被控訴人の包括的許諾の主張について

控訴人は、被控訴人が本件写真を製作後、そのネガフィルムをフォト・エージェンシーに預け、これによつて同業者を介する不特定の者に対して本件写真の自由な利用を許諾していた旨主張し、被控訴人も右ネガフィルムがその時期に日本天然色写真株式会社に存在していたことを認めており、<証拠>によると、写真家の間で控訴人主張の趣旨に符合するような形でネガフィルムの貸出利用が行なわれていることもないわけではないことが認められるが、その方法及び実態に関する具体的事実を認めるに足るものがないばかりでなく、また、本件写真が被控訴人の許諾のもとにA・I・U社のカレンダーに掲載されたこと、右写真に著作者名の表示がなかつたこと及び控訴人が右写真を利用して本件モンタージュ写真を製作したことは前記のとおりであるが、右カレンダーに掲載の本件写真を再利用する場合にもその原著作者である被控訴人の許諾を必要としない理由はなく、まして前認定のような態様で本件写真を改変利用することについてまで被控訴人の包括的許諾があつたとすべき根拠となりうるものはなく、他に右許諾があつたことを認めうる証拠もない。控訴人の前記主張は採用しえない。

(二)  本件写真利用の目的態様の相当性の主張について

(1) 控訴人は、本件モンタージュ写真がA・I・U社のカレンダーに掲載の本件写真と自動車のタイヤの写真とを組合わせて製作したいわゆるモンタージュ写真で、これにより、本件写真の著作意図とその美術的評価を風刺的に批判し、かつ、自動車公害の現況を風刺したいわゆるパロディーであつて、このような目的態様に照らし、本件写真の改変利用は社会的にやむをえないものとして許される旨主張する。

<証拠>によると、すでに公表された著名な著作物をもじり、その内容とは異なる内容のものとしてこれを茶化あるいは風刺する著作物としてパロディーと称される作品の分野が社会的に存在することが認められ、また、<証拠>によると、全く異質の写真の映像を組合わせて新たな写真を製作することにより、原写真に託された製作意図とは異なるものを表現する方法として、社会的にフォト・モンタージュと称される写真製作の技法が存在すること、本件モンタージュ写真がこの技法によつて製作されたものであつて、控訴人の意図は、本件写真の表現する美観そのものを風刺するとともに自動車公害に悩む現代社会を風刺するパロディーとするつもりであつたことが認められる。

しかし、著作物について著作者人格が認められるゆえんは、著作物が思想感情の創作的表白であつて、著作者の知的、かつ、精神的活動の所産として著作者の人格の化体ともいうべき性格を帯有するものであることを尊重し、これを保護しようとすることにあるものであるから、他人の著作物を利用してパロディーを製作しようとする場合、その表現形式上必然的に原著作物の要部を取込み利用するとともに、その内外両面にわたる表現形式に何らかの改変を加える必要があることは承認せざるをえないところであるが、これを無制限に許容することは、明文の根拠なしに原著作物の著作者人格権を否定する結果を招来し、とうてい容認しがたいところであつて、パロディーなる文芸作品分野の存在意義を肯認するとしても、原著作物の著作者人格権ことに同一性保持権との関連において、これを保護する法の趣旨を滅損しない程度においてなすべき旨の法律上の限界があるものといわざるをえない。こうした見地からみると、控訴人の主観的意図はともかく、本件モンタージュ写真が客観的にその主張のようなパロディーとして評価されうるとしても、前認定のような態様で本件写真の主要部分を取込み利用してこれに改変を加えた本件モンタージュ写真は、右の限界を超えた違法のものと評さざるをえない。

したがつて、本件モンタージュ写真の製作公表は、これについて被控訴人の同意があれば格別、そうでない限り、被控訴人に認められる本件写真についての著作者人格権を侵害するものとのそしりを免れない。

(2) この点について、さらに控訴人は、本件モンタージュ写真における本件写真の複製利用行為は旧著作権法三〇一条一項第二に規定する「自己ノ著作物中ニ正当ノ範囲内ニ於テ節録引用スルコト」にあたり、偽作として著作権侵害の責を問われるべきものではない旨主張する。

しかし、右引用にあたるというためには、引用を含む著作物の表現形式上、引用して利用する側の著作物と、引用されて利用される側の著作物とを明瞭に区別して認識することができ、かつ、右両著作物の間に前者が主、後者が従の関係があると認められることを要するものと解すべきであり、さらに、旧著作権法一八条三項の規定によれば、引用される側の著作物の著作者人格権を侵害するような態様でする引用が許されないことは明らかなところであつて、前認定のような態様で本件写真の主要部分を取込み利用した本件モンタージュ写真にあつては、利用された本件写真部分が従たるものとして引用されているということのできないことはいうまでもなく、また被控訴人の本件写真について有する著作者人格権を侵害するものであることも前記のとおりである。

したがつて、旧著作権法三〇条一項第二の規定を根拠に本件著作権侵害を否定する控訴人の前記主張も採用しえない。

四  被控訴人の損害について

1被控訴人が写真家として本件写真を製作した目的及び撮影の経過については冒頭に認定したとおりであるが、さらに、<証拠>を総合すると、被控訴人は昭和三五年ころから写真家として主に山岳関係の写真の著作発表を続け、本件モンタージュ写真が発表される以前に、作品を昭和三五年朋文社発行の「白川義員山岳写真集・白い山」、昭和三八年一〇月から昭和四二年六月講談社発行の「世界の文化地理」全二三巻、昭和三九年一〇月から昭和四一年七月株式会社世界文化社発行の「世界文化シリーズ」全二六巻に掲載して発表し、さらに、昭和四四年には本件写真とほぼ同じ場所で前日撮影した写真(甲第四号証の一の(ロ))を含むアルプスを撮影した写真集「ALPS

白川義員写真集」を講談社から出版し、右写真集が新聞や業界誌に紹介されて、写真家や写真愛好家の間でその作品の美術的価値を認められ、広く名を知られるに至つていたこと、被控訴人は、本件写真を撮影するについて、前記のとおり約二か月前から現地に赴き、日本スキー連盟の理事を介してサン・クリストフ所在のオーストリア国立スキー学校の校長クルッケン・ハウザー教授との面談の機会を得て、昭和四一年四月二〇日ころようやく同教授から本件写真の著作意図について諒承を得、その撮影許可を受けるとともに、右スキー学校の優秀なスキー教師をモデルとして紹介してもらうことができたこと、右撮影は前記のとおり二日間にわたつて行われたが、早朝の限られた時間帯にされなければならなかつたため、モデルと被控訴人の移動にはヘリコプターを利用したこと、このようなことから、被控訴人は、本件写真の著作のために合計一〇〇〇万円にも達する出費をせざるをえなかつたこと、なお、被控訴人は、そのころは主としてアルプスを対象とする写真製作を続けており、本件写真を製作後、前記のとおり写真集「ALPS」を出版したが、これと前後してヒマラヤを対象とする写真の製作を、その後さらに対象をアメリカ大陸に向け、昭和四六年にはヒマラヤを対象とする写真集「ヒマラヤ」を株式会社小学館から、同じく「神々の座」を株式会社朝日新聞からそれぞれ出版し、昭和五〇年にはアメリカ大陸を対象とする写真集「アメリカ大陸」を株式会社行人社から出版し、この間、昭和四六年六月に写真集「ALPS」等によつて日本写真協会から同年度表彰を受け、写真集「ヒマラヤ」によつて昭和四七年一月に毎日芸術賞を、同年三月に芸術選奨文部大臣賞を受けたこと、これらを通じて、被控訴人は写真家としての地歩を固め、高い評価を受けるようになつたこと、そして被控訴人は、本件モンタージュ写真が発表された当時、自作写真のネガフィルムの使用を許諾するについては、一枚につき原則として二〇万円の使用料の支払を受け、紛失の場合の賠償金を五〇万円と約定していたことが認められる。

以上の各事実に、前認定のような本件著作者人格権侵害の態様を併せ考えると、控訴人は本件モンタージュ写真を製作発表したことにより、本件写真の著作者である被控訴人の社会的名誉を著るしく毀損し、かつ、被控訴人にかなりの精神的苦痛を与えたものといわなければならない。そして、被控訴人が毀損された名誉を回復するためには、被控訴人主張(請求の原因3の(三))のとおりの謝罪広告の掲載を必要とするものと認めるのが相当である。

2そこで、次に、被控訴人のこうむつた右の精神的苦痛を慰藉すべき金額について検討する。

この点について、控訴人は、まず、本件モンタージュ写真を「週刊現代」に掲載して発行した講談社は控訴人と共同不法行為者というべきところ、すでに講談社と被控訴人との間で本件著作権侵害に関する示談が成立し、これに基づく金五〇万円の支払いも終えて、被控訴人はその余の損害賠償権を放棄したから、その効力は控訴人にも及ぶべき旨主張するが、右示談は、本件において被控訴人の著作者人格権を侵害すべきものとされた前認定の態様における不法行為中、講談社の関与した部分についてなされたものであることがその主張自体で明らかであるから、右講談社の関与部分に起因する慰藉料請求権が示談により消滅したものとしても、前認定の諸事情に照らし、被控訴人がこうむつた本件著作者人格権侵害による精神的苦痛を慰藉すべき金額として残存するところは、なお金五〇万円を下ることはないと認めるのが相当である。

3また、控訴人は、本件がすでに繰り返し詳細に報道されたことにより、控訴人による本件著作者人格権侵害により毀損された被控訴人の名誉信用は回復した旨主張し、<証拠>によると、本件についての第一審判決、差戻前の第二審判決及び上告審の差戻判決の概要は、いずれも新聞や法律関係誌、写真関係誌に掲載される一方、各判決や本件事案自体について種々の論評がなされていることが認められ、これによると、本件モンタージュ写真において利用された本件写真はもともと別添写真一のとおりのものであること及び本件写真の著作者が被控訴人であることは、すでに社会的に相当広く知られるに至つたものと推知するに難くない。

しかし、前認定のような本件著作者人格権侵害の態様に照らし、そうした事実があつたところで、本件モンタージュ写真の公表が被控訴人の同意に基づくものか、あるいは社会的に許容されるべきものかについて確定したわけではなく、これにより毀損された本件写真の著作者としての被控訴人の名誉信用が前記謝罪広告を不要とするほどに回復したものと認めることは相当でないから、被控訴人にはなお毀損された名誉信用の回復措置としての謝罪広告を求める利益があるものというべきである。控訴人のこの点に関する主張は理由がない。

4なお、被控訴人は、本訴請求は本件写真についての著作財産権の侵害に基づく名誉回復と慰藉料の支払いをも併せ求める趣旨である旨主張するが、著作財産権の内容というべき著作物の複製頒布権の侵害につき数量程度の主張をするわけでもなく、本件写真の複製頒布の点に関し、被控訴人に格別の精神的愛着があつたことを客観的に是認させるに足るべき特段の事情の存したことを主張することもなく、またそのような立証もない。そればかりでなく、さきに認定したところで明らかなように、被控訴人はすでに本件写真を自ら公表し、A・I・U社のカレンダーにもこれが掲載されており、また、<証拠>によると、被控訴人は、その他コカ・コーラ社の昭和四六年用カレンダーにも本件写真の掲載を許していたことが認められるのであるから、本件写真の複製頒布に関する権利を侵害されたとして財産的損害の填補を求めることは格別、これによる精神的損害の賠償等を求めることは、理由がないといわざるをえない。

五  結論

以上の次第であるから、控訴人は被控訴人に対して、本件モンタージュ写真の製作発表によつて毀損した本件写真の著作者としての被控訴人の名誉信用の回復のために被控訴人の求める謝罪広告をすべき義務があり、また、被控訴人がこうむつた精神的苦痛に対する慰藉料として、金五〇万円及びこれに対する不法行為以後の昭和四六年一〇月七日から支払済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金を支払うべき義務がある。したがつて、被控訴人の本訴請求は理由があり、これを認容した原判決は正当である。

よつて、民事訴訟法三八四条に則り本件控訴を棄却することとし、訴訟費用の負担につき同法九六条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(石澤健 楠賢二 岩垂正起)

謝罪広告

私の写真集として昭和四五年四月刊行した「SOS」中、二〇葉目の写真および週刊現代昭和四五年六月四日号に「軌跡」と題して掲載発表した写真は、株式会社実業之日本社発行SKI'67または昭和四三年用A・I・Uカレンダーに貴殿が発表されたサンクリストフを滑降するスキー写真を無断で複写盗用し、かつ、右上部にタイヤを配して合成改ざんしたものであつて、貴殿の著作権を侵害したものであり、多大のご迷惑をおかけしたことをここに深くお詫びいたします。

マツド・アマノこと

天野正之

白川義員殿

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